大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(行ケ)111号 判決

大阪府守口市京阪本通2丁目18番地

原告

三洋電機株式会社

同代表者代表取締役

高野泰明

鳥取県鳥取市南吉方3丁目201番地

原告

鳥取三洋電機株式会社

同代表者代表取締役

米山幸太郎

原告両名訴訟代理人弁理士

長野正紀

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

同指定代理人

清水康志

今野朗

野村泰久

関口博

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

「特許庁が平成2年審判第7383号事件について平成5年6月17日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和55年3月5日に出願された特願昭55-28322号を原出願とする分割出願として、同年11月13日、名称を「コードレス電話装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭55-160548号)したが、平成2年3月9日拒絶査定を受けたので、同年5月10日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第7383号事件として審理し、平成3年9月11日に出願公告(特公平3-59613号)したが、特許異議の申立てがあり、平成5年6月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年7月12日原告らに送達された。

二  本願発明の要旨

電話回線に接続された送受信機を備えた親局と、無線で結ばれた子局で構成され、親局を介して子局が外線と接続されると共に、親局と子局間でインターホンとして通話を行なうことができるコードレス電話装置において、親局に、呼出しスイッチの操作により子局を呼出す制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け、子局に、送信された制御信号を受信し、呼出し信号を発生する手段を設け、親局より子局を呼出すよう構成すると共に、更に子局には呼出しに応答する制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け、親局には子局よりの制御信号の受信で、親局と子局間の通話回線を形成すると共に子局への呼出しスイッチによる制御信号の送信をこの通話回線の形成中停止させる手段を設けたことを特徴とするコードレス電話装置。(別紙図面1参照)

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨

本願発明の要旨は前項記載のとおりであるが、これを構成要件ごとに符号を付して記すと次のとおりである。

(A1) 電話回線に接続された送受信機を備えた親局と、

(A2) 無線で結ばれた子局で構成され、

(A3) 親局を介して子局が外線と接続されると共に、親局と子局間でインターホンとして通話を行なうことができるコードレス電話装置において、

(B) 親局に、呼出しスイッチの操作により子局を呼出す制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け、

(C) 子局に、送信された制御信号を受信し、呼出し信号を発生する手段を設け、

(D) 親局より子局を呼出すよう構成すると共に、更に子局には呼出しに応答する制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け、

(E) 親局には子局よりの制御信号の受信で、親局と子局間の通話回線を形成すると共に子局への呼出しスイッチによる制御信号の送信をこの通話回線の形成中停止させる手段を設けたこと

(F) を特徴とするコードレス電話装置。

2  引用例記載の発明

(1) 特開昭55-5529号公報(昭和55年1月16日出願公開。審決における甲第1号証、本訴における甲第6号証。以下「引用例1」という。)には、次のことが図面(別紙図面2参照)と共に記載されている。

(a) 「交換局に接続された加入者の基地局と該基地局と無線接続された移動電話機からなる電話装置において、前記基地局には固定電話機を接続するとともに交換局との接続を移動電話機側又は固定電話機側に切換えるスイッチを設け、該スイッチを操作して固定電話機側にすれば、固定電話機を介して他の加入者と通話でき、他方スイッチを移動電話機側にすれば、移動電話機を介して他の加入者と通話できるとともに移動電話機と固定電話機間でも通話することができることを特徴とする電話装置。」(特許請求の範囲)

(b) 「受信回路(10)は後述する移動電話機の送信回路(43)から送信される信号を受信して復調する受信回路であり、該受信回路(10)で復調された通話信号はフイルタ(17)と増幅回路(14)を介してトランス(T1)に伝送されるとともに、10KHzのトーン信号はデコーダ(11)に、5KHzのトーン信号はデコーダ(12)にそれぞれ供給される。」(2頁右下欄3行ないし9行)

(c) 「送信回路(43)、発振回路(44)及び発振回路(45)の電源端子はフックスイッチ(ヌ)を介して直流電源(46)の正極に接続されている。前記発振回路(45)はフックスイッチ(ヌ)が閉じ、かつコールスイッチ(リ)が閉じた時5KHzのトーン信号を串力し、又発振回路(44)はフックスイッチ(ヌ)が閉じた時10KHzのトーン信号を出力する」(3頁右下欄9行ないし15行)

(d) 「受信回路(41)のスケルチ端子にはブザー回路(47)が接続されており、該ブザー回路(47)は受信回路(41)が搬送波を受信した時発生するスケルチ信号によって動作し、かつフックスイッチ(ヌ)が閉じた時動作を停止するよう構成されている。」(3頁右下欄19行ないし4頁左上欄3行)

(e) 「スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定して、コールスイッチ(チ)を閉じる。そうすることによってトランジスタ(Q2)のベース電位が低下してトランジスタ(Q2)が導通し、トランジスタ(Q2)が導通すると、送信回路(16)にトランジスタ(Q2)及びダイオード(21)を介して直流電源(9)が接続され、送信回路(16)が動作する。そして、送信回路(16)から送信された搬送波を移動電話機の受信回路(41)が受信すると、該受信回路(41)のスケルチ信号により、ブザー回路(47)が動作する。」(4頁右上欄16行ない左下欄5行)

(f) 「ブザー回路(47)の動作を聞いて近くの人が送受話器(42)を取り上げたら、以下記述する如く、移動電話機と固定電話機(2)間の通話が可能となる。即ち、送受話器(42)を取上げている間、フックスイッチ(ヌ)が閉じて発振回路(44)が動作し、10KHzのトーン信号が送信回路(43)から送信される。このトーン信号が受信回路(10)で受信され、デコーダ(11)に入力されると、該デコーダ(11)の出力は「L」レベルになり、発光ダイオード(13)を発行させ、トランジスタ(Q3)を導通させる。その結果、送受話器(42)を取上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続ける。そして又、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介して、それぞれ接続されているので、固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能である。」(4頁左下欄6行ないし右下欄4行)

(g) 「スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が移動電話機側に設定されている時は、互いにコールスイッチ(チ)又は(リ)を押して相手側のブザー回路(47)又は(31)を動作させて、相手を呼出し、インターホンとして通話できる。」(5頁右下欄3行ないし7行)

なお、前記(f)の「発光ダイオード(13)を発行させ」(4頁左下欄14行)は「発光ダイオード(13)を発光させ」の誤記と認められる。

ここで、前記(a)に記載の「移動電話機と固定電話機間でも通話することができる」(1頁左下欄13行、14行)は、前記(g)に記載の固定電話機(2)と移動電話機とがインターホンとして通話できることに対応している。

また、前記(b)に「受信回路(10)は後述する移動電話機の送信回路(43)から送信される信号を受信して復調する受信回路」(2頁右下欄3行ないし5行)とあることから、前記送信回路(43)から送信される信号は、変調されて送信されるもの、即ち搬送波を変調して送信されるものである。

以上のことから、引用例1には、交換局に接続された加入者の基地局(1)と該基地局(1)と無線接続された移動電話機からなる電話装置において、前記基地局(1)には固定電話機(2)を接続するとともに交換局との接続を移動電話機側又は固定電話機側に切換えるスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を設け、該スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を操作して固定電話機側にすれば、固定電話機を介して他の加入者と通話でき、他方スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側にすれば、移動電話機を介して他の加入者と通話できるとともに移動電話機と固定電話機間でもインターホンとして通話することができることを特徴とする電話装置であって、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定した後、コールスイッチ(チ)を閉じて前記基地局(1)の送信回路(16)を動作させ、該送信回路(16)から搬送波を前記移動電話機に送信し、該移動電話機では受信回路(41)がこの搬送波を受信すると、該受信回路(41)のスケルチ信号によりブザー回路(47)が動作し、該移動電話機側で該ブザー回路(47)の動作を聞いて送受話器(42)が取り上げられると、フックスイッチ(ヌ)が閉じて前記ブザー回路(47)の動作が停止すると共に、前記移動電話機の発振回路(44)と送信回路(43)に直流電源(46)が接続されて該発振回路(44)と送信回路(43)とが動作し、該発振器(44)で出力された10KHzのトーン信号は、送信回路(43)から搬送波の変調を介して前記基地局(1)に送信され、基地局(1)の受信回路(10)で受信復調された前記10KHzのトーン信号がデコーダ(11)に入力されると、デコーダ(11)はトランジスタ(Q3)を導通させ、前記受信回路(10)につながる増幅回路(14)と送信回路(16)に電源が供給され、この結果、送受話器(42)を取上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続け、そして又、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介してそれぞれ接続され、前記固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能となることが記載されている。

(2) 特開昭53-20704号公報(昭和53年2月25日出願公開。審決における甲第2号証、本訴における甲第7号証。以下「引用例2」という。)には、次のことが図面(別紙図面3参照)と共に記載されている。

電話回線に接続された電話機とこれに接続される無線送信部T1及び無線受信部R1を備えた電話機側が携帯無線送受信機と無線で結ばれる無線電話装置として、電話回線から前記電話機側に呼出信号が送られてきたとき、該電話機側の無線送信部T1は、前記呼出信号で所定の搬送波を変調して送出し、前記携帯無線送受信機ではこれを受信し、着信呼に応答して応答スイッチRSをオンすれば、該携帯無線送受信機より所定の信号が伝送され、前記電話機側において前記電話機のフックスイッチFSを動作させたと同様の状態となり、交換機は被呼者応答により前記呼出信号の送出を停止し、発呼者との通話路が形成されること。

(3) 特開昭49-99404号公報(昭和49年9月19日出願公開。審決における甲第3第号証、本訴における甲第8号証。以下「引用例3」という。)には、次のことが図面(別紙図面4参照)と共に記載されている。

インターホンに関し、子器1の押釦スイッチPB1をオンすることにより、親器3の発振器5が作動し、該発振器5の発振音によって親器3が呼出され、親器3において、ハンドセット7を持ち上げ応答すれば、親器3と子器1との通話回路が構成され、同時に前記発振音が停止し、再びハンドセット7を元に戻しても発振音が発せられないこと。

3  本願発明と引用例1記載のものとの対比

(1) 一致点

本願発明における構成(A1)の「電話回線に接続された送受信機を備えた親局」と、構成(A2)の「無線で結ばれた子局」に関し、引用例1の、交換局側が前記(A1)の「電話回線」に、そして該交換局に接続された加入者の基地局(1)及びこれに接続された固定電話機(2)が前記(A1)の「送受信機を備えた親局」に、無線接続された移動電話機が前記(A2)の「無線で結ばれた子局」にそれぞれ対応しており、また、本願発明における構成(A3)の「親局を介して子局が外線と接続されると共に、親局と子局間でインターホンとして通話を行なう」に関し、引用例1の、スイッチを移動電話機側にすれば、移動電話機を介して他の加入者と通話できるとともに移動電話機と固定電話機間でもインターホンとして通話することができることが前記(A3)に対応している。

したがって、引用例1の電話装置もコードレス電話装置といえる。

また、本願発明における構成(B)の「親局に、呼出しスイッチの操作により子局を呼び出す制御信号を送信する手段を設け」に関し、引用例1のコールスイッチ(チ)が前記(B)の「呼出スイッチ」に、引用例1の送信回路(16)から送信される搬送波が前記(B)の「制御信号」に、引用例1のコールスイッチ(チ)及び該コールスイッチを閉じたとき動作する送信回路(16)が基地局(1)に設けられていることが前記(B)の「親局に、・・送信する手段を設け」にそれぞれ対応している。

また、本願発明における構成(C)の「子局に送信された制御信号を受信し、呼出信号を発生する手段を設け」に関し、引用例1の送信回路(16)からの搬送波を受信する受信回路(41)と該受信回路(41)のスケルチ信号で動作するブザー回路(47)が前記(C)の「送信された制御信号を受信し、呼出信号を発生する手段」に、引用例1の前記受信回路(41)とブザー回路(47)とを移動電話機1に設けることが前記(C)の「子局に、・・・を設け」にそれぞれ対応している。

また、本願発明における構成(D)の「子局には呼出しに応答する制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け」に関し、引用例1の発振回路(44)が出力する10KHzのトーン信号が前記(D)の「呼出に応答する制御信号」に、引用例1の10KHzのトーン信号を送信する送信回路(43)が前記(D)の「搬送波の変調を介して送信する手段」に、引用例1の発振回路(44)と送信回路(43)とが移動電話機に設けられることが前記(D)の「子局には・・・設けられ」にそれぞれ対応している。

また、本願発明における構成(E)の「親局には・・親局と子局との回線を形成する手段を設け」に関し、引用例1の、基地局(1)の受信回路(10)で受信復調された前記10KHzのトーン信号がデコーダ(11)に入力されると、デコーダ(11)はトランジスタ(Q3)を導通させ、前記受信回路(10)につながる増幅回路(14)と送信回路(16)に電源が供給され、送受話器(42)を取上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続け、そして又、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介してそれぞれ接続され、前記固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能となることが前記(E)の「親局には・・親局と子局との回線を形成する手段を設け」に対応している。

したがって、両者は、

電話回線に接続され送受信機を備えた親局と、無線で結ばれた子局で構成され、

親局を介して子局が外線と接続されると共に、親局と子局でインターホンとして通話を行うことができるコードレス電話装置において、

親局に、呼出しスイッチの操作により子局を呼出す制御記号を送信する手段を設け、

子局に、送信された制御記号を受信し、呼出し信号を発生する手段を設け、

親局より子局を呼出すよう構成すると共に、更に子局には呼出しに応答する制御信号を搬送波の変調を介して送信する手段を設け、

親局には子局よりの制御信号の受信で、親局と子局間の通話回線を形成する手段を設けたこと、

を特徴とするコードレス電話装置である点で一致している。

(2) 相違点

〈1〉 本願発明が、子局を呼出す制御信号を、搬送波の変調を介して送信するのに対し、引用例1のものは、子局を呼出す制御信号が搬送波である点(相違点〈1〉)。

〈2〉 本願発明は、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、制御信号の送出を通話回線の形成中停止する手段を親局に設けたのに対し、引用例1のものは、制御信号による呼出しに子局となる移動電話機で送受話器(42)を取り上げて応答した場合、制御信号の送出を停止せず、子局となる移動電話機側に、送受話器(42)を取り上げたらフックスイッチ(ヌ)が閉じ、受信回路(41)が該制御信号を受けて出力するスケルチ信号で動作するブザー回路(47)の動作を通話回線の形成中停止するよう構成した点(相違点〈2〉)。

4  相違点についての判断

(1) 相違点〈1〉について

明細書の記載によると、本願発明は、子局を呼び出す制御信号が、搬送波の変調を介して送信されるので、他のコードレス電話装置の搬送波で誤動作するのを低減するとある(平成4年6月25日付け手続補正書2頁7行ないし20行)。

ところで、引用例2の電話回線に接続された電話機と無線送信部T1及び無線受信部R1を備えた電話機側が、本願発明における(A1)の「電話回線に接続された送受信機を備えた親局」に、また、引用例2の無線で結ばれる携帯無線送受信機が、本願発明における構成(A2)の「無線で結ばれる子局」に、また、引用例2の呼出信号が本願発明における構成(B)の「子局を呼出す制御信号」にそれぞれ対応しており、引用例2も、子局を呼出す制御信号を搬送波の変調を介して送信している。

ただ、引用例2には、前記制御信号を搬送波の変調を介して送信すれば、他の無線電話機の搬送波で誤動作するのを低減できるとの記載はないが、信号を搬送波の変調を介して送信すれば、他の機器の搬送波で誤動作するのを低減できることは当該技術分野において周知の事項であり、結局、前記誤動作するのを低減するとの作用効果は、信号を搬送波の変調を介して送信すること自体により奏せられる作用効果にすぎない。

そして、引用例1及び引用例2は、共に親局と子局とが無線で結ばれる電話装置であることから、引用例1の、子局を呼出す制御記号を送信するのに、引用例2の、搬送波の変調を介して送信する技術を採用し、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。

〈2〉 相違点〈2〉について

本願発明と引用例1とは、共に子局の応答で、親局と子局との通話回線の形成中子局の呼出しが停止するものであるが、かかる停止を、制御信号の送出を停止する手段を親局に設けて行うか、あるいは制御信号の送出を停止せず、子局となる移動電話機側に、送受話器(42)を取り上げたらフックスイッチ(ヌ)が閉じ、受信回路(41)が該制御信号を受けて出力するスケルチ信号で動作するブザー回路(47)の動作を停止するよう構成することで行うかにより、作用効果上、両者に格別なものがあると認められない。

ところで、引用例2において、子局に対応する携帯無線送受信機が応答すると、親局に対応する電話機側のフックスイッチFSを動作させたと同様の状態となり、交換機は搬送波を変調する呼出信号の送出を停止する。すなわち、呼出信号に対応する制御信号の送出を停止する手段は、この制御信号の送出をする交換機に設けられている。また、引用例3に記載のものにおいて、子器1の呼出しに対し、親器3がハンドセット7を持ち上げて応答すれば、親器3に設けられた発振器5の呼出し発振音が停止するよう構成されている。

してみると、呼出しに対応する応答で、制御信号の送出側に送出を停止する手段を設けるか、あるいは応答側で呼出しの発振音を停止するよう構成するかは適宜実施されているところであって、結局、相違点〈2〉に発明があると認め難い。

5  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1ないし3に記載されたものに基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1、2(1)ないし(3)、3(1)、(2)は認める。同4(1)ないし(3)、5は争う。

審決は、相違点〈1〉及び〈2〉についての判断を誤り、かつ、本願発明の顕著な作用効果を看過して、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  相違点〈1〉の判断の誤り(取消事由1)

コードレス電話でインターホン通話のため親局が子局を呼び出す場合、搬送波の検出のみで呼出し等の処理を行うようにすると、子局が他のコードレス電話装置の搬送波で誤動作することがあることに鑑み、本願発明は、親局が子局を呼び出す信号を、親局が呼出しスイッチを操作して生ずる搬送波を変調した制御信号としたものであって、これにより、搬送波の変調を介した制御信号に基づき呼出し等の処理を行うようにし、子局が他のコードレス電話装置の搬送波により誤動作することを低減するという作用効果を奏するものである。このように、本願発明は、コードレス電話でインターホン通話をするときの子局の誤動作低減を課題にしているのである。

これに対し、引用例2記載の子局を呼び出す信号は、電話回線からの直接の信号であって、本願発明のようにコードレス電話でインターホン通話するときの信号でもなければ、親局に設けられた子局を呼び出すためのスイッチの操作による呼出信号でもない。また、信号を搬送波の変調を介して送信すれば、他の機器の搬送波で誤動作するのを低減できることが当該技術分野において周知の事項であるとしても、引用例2には、信号を搬送波の変調を介して送信する技術的意味について何も記載されておらず、まして、本願発明の課題である、コードレス電話でインターホン通話するとき、他のコードレス電話装置の搬送波による子局の誤動作低減については何も示されていない。

したがって、引用例1のコードレス電話装置に引用例2の技術を適用して、本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得るものとはいえず、相違点〈1〉についての審決の判断は誤りである。

(2)  相違点〈2〉の判断の誤り(取消事由2)

本願発明は、親局と子局間でコードレス電話でインターホン通話するため、親局には子局を呼び出すためのスイッチがあり、そのスイッチを操作することにより送出される制御信号であることを前提とし、子局が応答すると、制御信号の送出を停止するものである。

これに対し、引用例2に示されているものは、電話回線からの子局呼出信号を、親局を中継して送出しているものであり、また、呼出信号はあくまでも電話回線からの信号であって、子局を呼び出すための親局の操作スイッチからの信号ではない。また、引用例2には、単に電話回線からの信号を停止することだけが示されているだけであって、本願発明のような、操作スイッチを有する親局と子局間でインターホンとして通話する場合の、親局からの制御信号を停止するものとは全く相違するのである。

また、引用例3に記載されているものは、子器1の呼出しに対し、親器3がハンドセット7を持ち上げて応答すれば、親器3に設けられた発振器5の呼出し発振音が停止するように構成された、単なる有線のインターホンであって、本願発明のコードレス電話装置とは対象が相違する。また、引用例3のものは、呼出信号を停止するのは、呼び出された側、すなわち、子器からの呼出しに親器が応答した時の呼び出された親器側で呼出信号を停止するようにしているのに対し、本願発明では呼び出す機器の側、すなわち、親局側で呼出信号を停止するようにしている。このように、引用例3に記載されているものと本願発明とは、対象が相違し、また、制御信号を停止させる手段の設けられた場所も相違するのである。

ところで、審決は、相違点〈2〉に発明が認められないことの理由として、作用効果上格別の差異がないことを挙げている。

確かに、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、本願発明も引用例1記載のものも、子局のブザーが鳴らないようにした点では共通しているが、子局のブザーが鳴らないようにするための手段として、親局で送出信号を止めてしまうことと、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切ることとは技術的に全く相違し、その作用効果も相違するのである。本願発明の場合、親局で送信信号を止めてしまうので、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切る場合に比べて、消費電力の節約や通話中に雑音がでにくいという作用効果を奏するのである。

そして、出願に係る発明と対比される発明との間に構成上の差が存する場合、その差が容易に想到し得るものと判断するには、その構成の差そのものが公知であることが必要であるところ、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、親局で送出信号を止めてしまうという構成は公知ではない。

したがって、相違点〈2〉についての審決の判断は誤りである。

(3)  作用効果の看過(取消事由3)

本願発明は、「親局のスイッチを操作することにより生ずる搬送波を変調した制御信号で子局を呼び出すこと」と、「子局が呼出しに応じると親局が制御信号の送信をこの通信回線の形成中停止させること」とを必須の構成として結びつけたことにより、コードレス電話でインターホン通話をする場合、子局が応答しても鳴り続けたり、また、通話もないのに、他のコードレス電話装置の搬送波により子局が鳴ってしまったり、親局と子局とが通話中に誤って呼出しスイッチを操作してしまった場合に子局の呼出信号が鳴るといったように、子局が意味もなく鳴ることを防止して正常な通話をすることができ、さらに、子局が親局から受けた状態でブザー回路そのものを切るのに比べて、消費電力の節約や通話中に雑音が出にくいという、作用効果を奏するものである。

これらの作用効果は、上記個々の構成により奏される作用効果からは到底予見できない顕著なものであるにもかかわらず、審決はこの点を看過したものである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の判断は正当であって、原告ら主張の違法はない。

二  反論

(1)  取消事由1について

引用例2記載のものは、親局と子局が無線で結ばれる電話装置において、親局側から子局を呼び出す制御信号を、搬送波の変調を介して送信するという本願発明と同種の制御信号送信構成である。

ところで、引用例2には、呼出し制御信号を搬送波の変調を介して送信する技術的意味について明文の記載はないが、子局を呼び出す制御信号が搬送波の変調を介して送信されるのであれば、他の機器の変調波で子局が誤動作しないことは当然ともいうべき周知事項である。

そして、引用例1においても、親局と子局とが無線で結ばれ、子局を呼び出す制御信号となる搬送波が親局から送信されるものであることから、子局を呼び出す制御信号を、搬送波の変調を介して送信する引用例2の技術を採用してみようと着想することに格別困難性があると認め難く、その採用により奏される作用効果も格別のものとはいえない。

したがって、相違点〈1〉についての判断に誤りはない。

(2)  取消事由2について

引用例2における電話回線からの呼出信号は、子局の呼出し制御信号となるものであり、この呼出し線を子局の応答で停止するものであって、本願発明の、操作スイッチを有する親局と子局間でインターホンとして通話する場合の、親局からの直接の呼出し制御信号を停止するものではないが、親局と子局とが無線で結ばれる電話装置であること、及び、子局が応答すれば、呼出し制御信号を停止するという結果の点で、本願発明と引用例2のものとは一致しており、両者は、子局の応答で呼出し制御信号を停止させる点で同種のものである。

また、本願発明は、親局と子局間でインターホンとして通話を行うことができるコードレス電話装置であるのに対し、引用例3には、本願発明の親局に対応する親器と、本願発明の子局に対応する子器とがインターホン通話できるものであるものの、親器と子器とが有線で結ばれ、本願発明の、無線で親局と子局とが結ばれるものと異なるが、インターホン通話をするための呼出しに応答して、呼出しの発振音が停止することにおいて、本願発明と同種のものである。

そして、呼出しに応答して呼出し制御信号を停止し、あるいは発振音を停止することにおいて、本願発明と引用例1及び2の技術が同種のものであり、しかも、呼出しに対する応答で、制御信号の送出側に該送出を停止する手段を設けるか、あるいは、応答側で呼出しの発振音を停止するように構成することが、引用例1及び引用例2にそれぞれ記載されていることから、呼出しに対する応答で、制御信号の送出側に該送出を停止する手段を設けるか、あるいは、応答側で呼出しの発振音を停止するように構成することは適宜実施されているものということができる。

したがって、相違点〈2〉についての審決の判断に誤りはない。

なお、原告らは、本願発明の場合、親局側で制御信号を止めてしまうので、子局が親局から受けた状態でブザー回路そのものを切るのに比べて、消費電力の節約や通話中の雑音が出にくいという作用効果が生ずる旨主張するが、この作用効果については、本願明細書には何ら記載されていないし、自明であるとする根拠も見出せない。

(3)  取消事由3について

各相違点に係る本願発明の構成に基づく作用効果は格別のものでない。また、原告ら主張の構成が有機的関係にあるとはいえず、上記構成を結びつけたことによる格別の作用効果というものもない。

したがって、審決に作用効果の看過はない。

第四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(審決の理由の要点)、及び、審決の理由の要点2(1)ないし(3)(引用例1ないし3の記載)、3(1)、(2)(一致点及び相違点の認定)については、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

甲第2号証(本願公告公報)、第3号証(本願の特許願書)、第4号証(平成2年6月8日付け手続補正書)、及び第5号証(平成4年6月25日付け手続補正書)によれば、本願発明は、「既設の電話機に接続された送受信機を親局とし、これと携帯用子局を無線で結ぶことにより、子局が親局を介して外線に接続され子局と外線間で通話することが出来ると共に、親局の既設の電話機と子局間でインターホンとして自由に通話を行なうことができるコードレス電話装置に関し、特に親局から子局を呼出す際に親局の呼出しスイッチが操作され続けた場合にも、子局の応答で呼出し信号を停止させ、子局の呼出し信号が鳴り続けるのを防止したことを特徴とするコードレス電話装置に関する。」(甲第2号証1欄18行ないし2欄7行)ものであって、前示要旨のとおりの構成を採択したものであること、本願発明のコードレス電話装置は、「搬送波の検出のみで呼出し等の処理を行なうようにすると、他のコードレス電話装置の搬送波で誤動作することがあることに鑑み、搬送波の変調を介して制御信号を送信してこの制御信号に基づき呼出し等の処理を行なうようにし、誤動作を低減するようにした構成において、親局側で制御信号の送信停止の操作がされない場合に、子局の呼出し信号鳴り続けるのを防止し、又親局と子局が通話中に誤って呼出しスイッチを操作した場合に子局の呼出し信号が鳴るのを防止することができる。」(甲第5号証2頁9行ないし19行)ものであることが認められる。

三  取消事由に対する判断

1  取消事由1について

(1)  引用例2には、電話回線に接続された電話機とこれに接続される無線送信部T1及び無線受信部R1を備えた電話機側が携帯無線送受信機と無線で結ばれる無線電話装置として、電話回線から前記電話機側に呼出信号が送られてきたとき、該電話機側の無線送信部T1は、前記呼出信号で所定の搬送波を変調して送出し、前記携帯無線送受信機ではこれを受信し、着信呼に応答して応答スイッチRSをオンすれば、該携帯無線送受信機より所定の信号が伝送され、前記電話機側において前記電話機のフックスイッチFSを動作させたと同様の状態となり、交換機は被呼者応答により前記呼出信号の送出を停止し、発呼者との通話路が形成されることが記載されている(このことは、当事者間に争いがない。)。

上記引用例2の電話回線に接続された電話機と無線送信部T1及び無線受信部R1を備えた電話機側は、本願発明における「電話回線に接続された送受信機を備えた親局」に、引用例2の無線で結ばれる携帯無線送受信機は、本願発明における「無線で結ばれた子局」に、引用例2の呼出信号は、本願発明における「子局を呼出す制御信号」にそ屯ぞれ対応するものと認められ、したがって、引用例2記載のものも、子局を呼び出す制御信号である呼出信号、すなわち電話回線から得られる呼出信号を搬送波の変調を介して送信しているものということができる。

ところで、引用例2には、呼出し制御信号を搬送波の変調を介して送信する技術的意味について特に記載はないが、信号を搬送波の変調を介して送信すれば、他の機器の搬送波で誤動作するのを低減できることは、当該技術分野において周知の事項であり(このこと自体は原告らも特に争わないところであり、前記二項に認定のとおり本願明細書に「搬送波の検出のみで呼出し等の処理を行なうようにすると、他のコードレス電話装置の搬送波で誤動作することがあることに鑑み、」と記載されていることに照らしても、上記事項は周知であると認められる。)、引用例1及び引用例2記載のものは共に、無線で結ばれた電話装置の親局と子局とにおいて、親局側から子局を呼び出す制御信号の送信技術に関するものであるから、引用例1の子局を呼び出す制御信号について、搬送波の変調を介して送信する引用例2の技術を適用しようとすることは、当業者が容易に想到し得ることと認めるのが相当であり、また、その適用により、親局と子局間でインターホンとして通話する場合に、他のコードレス電話装置の搬送波で誤動作するのを低減させるという本願発明の作用効果は、当然予測し得る程度のものであって、格別のものということはできない。

(2)  原告らは、相違点〈1〉の判断が誤りであることの理由の一つとして、引用例2記載の子局を呼び出す信号は電話回線からの直接の信号であって、本願発明のようにコードレス電話でインターホン通話するときの信号でもなければ、親局に設けられた子局を呼び出すためのスイッチの操作による呼出信号でもない旨主張する。

しかし、引用例2における電話回線から得られる制御信号と、本願発明における呼出しスイッチの操作により得られる制御信号との差異は、呼出し信号としての生成に関する差異に止まり、呼出し信号としての機能自体には関わりのない事項である。親局側のスイッチ操作により得られる呼出信号を送信することは、引用例1に記載されている事項であり、相違点〈1〉の判断の当否について問題になるのは、子局を呼び出す制御信号について、搬送波の変調を介して送信する技術が公知であるか否かということである。

したがって、原告らの上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、相違点〈1〉についての審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  前記1(1)のとおり、引用例2のものは、携帯無線送受信機(子局に対応する)が応答すると、電話機側(親局に対応する)のフックスイッチFSを動作させたと同様の状態となり、交換機は搬送波を変調する呼出信号の送出を停止するものであって、呼出信号に対応する制御信号の送出を停止する手段は、この制御信号の送出をする交換機に設けられている。すなわち、送出側に制御信号の送出を停止する手段が設けられているのである。

引用例3には、インターホンに関し、子器1の押釦スイッチPB1をオンすることにより、親器3の発振器5が作動し、該発振器5の発振音によって親器3が呼出され、親器3において、ハンドセット7を持ち上げ応答すれば、親器3と子器1との通話回路が構成され、同時に前記発振音が停止し、再びハンドセット7を元に戻しても発振音が発せられないことが記載されている(このことは、当事者間に争いがない。)。すなわち、引用例3記載のものは、子器1の呼出しに対し、親器3がハンドセット7を持ち上げて応答すれば、親器3に設けられた発振器5の呼出し発振音が停止するように構成されている。

上記事実によれば、呼出しに対する応答で、制御信号の送出側に送出を停止する手段を設けるか、あるいは応答側で呼出しの発振音を停止するように構成するかは適宜実施されているところであると認めるのが相当である。

また、相違点〈2〉に係る本願発明と引用一例1記載のものとの構成の差により、作用効果上、格別の差異があるとは認められない。

(2)  原告らは、相違点〈2〉の判断が誤りであることの理由の一つとして、引用例2記載の呼出信号は電話回線からの信号であって、子局を呼び出すための親局の操作スイッチからの信号ではないこと、引用例2には、単に電話回線からの呼出信号を停止することが示されているだけであって、本願発明のような、操作スイッチを有する親局と子局間でインターホンとして通話する場合の、親局からの制御信号を停止するものとは全く相違することを挙げている。

しかし、審決が、相違点〈2〉の判断をするについて、引用例2を、呼出しに対する応答で制御信号の送出側に送出を停止する手段を設ける技術が公知であることを示すために引用したものであることは、審決の理由の要点に照らして明らかであり、また、子局を呼び出すための親局の操作スイッチの信号により呼出信号を送信することは、引用例1に開示されているのであるから、原告らの上記主張は失当である。

原告らは、引用例3に記載されているものと本願発明とは、対象が相違し、制御信号を停止させる手段の設けられた場所も相違する旨主張するが、審決の理由の要点によれば、審決が引用例3を引用しているのは、インターホン通話をするための呼出しに応答して、呼出しの発振音が停止する点において、本願発明と同種のものであることを示すためであると認められるから、原告らの上記主張は、相違点〈2〉の判断の誤りを理由づけるものとしては当を得たものとはいえない。

また原告らは、本願発明の場合、親局で送信信号を止めてしまうので、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切る場合に比べて、消費電力の節約や通話中に雑音がでにくいという作用効果を奏する旨主張するが、本願明細書にこの点についての記載はなく、また、上記作用効果を奏することが本願明細書の記載から自明であるということもできない。

さらに原告らは、出願に係る発明と対比される発明との間に構成上の差が存する場合、その差が容易に想到し得るものと判断するには、その構成の差そのものが公知であることが必要であるところ、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、親局で送出信号を止めてしまうという構成は公知ではない旨主張するが、上記(1)に説示したところに照らして採用できない。

(3)  以上のとおりであって、相違点〈2〉についての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

3  取消事由3について

本願発明は、前記二項に掲記のとおりの作用効果を奏するものであるが、原告らのいう、(a)通話もないのに、他のコードレス電話装置の搬送波により子局が鳴ってしまうというようなことを防止するという作用効果は、搬送波の変調を介した制御信号で子局を呼び出す構成としたことによりもたらされるものであり、また、(b)子局が応答しても鳴り続けたり、親局と子局とが通話中に誤って呼出しスイッチを操作してしまった場合に子局の呼出信号が鳴るというようなことを防止するという作用効果は、制御信号の送信を通信回線の形成中停止させる構成としたことによりもたらされるものであって、これらの作用効果は、それぞれ対応する上記個々の構成により奏されるものであり、かつ、その構成から当然予測し得る程度のものであって格別のものということはできない。

原告らは、上記各作用効果は、上記個々の構成により奏される作用効果からは到底予見できない顕著なものである旨主張するが、採用できない。

したがって、審決に本願発明の作用効果についての看過はなく、取消事由3は理由がない。

四  以上のとおりであって、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告らの本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

別紙図面4

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例